2018/01/12

テーマ:介護 仕事

”VUCA”な介護業界、介護施設、介護の仕事

2018年がスタートした。4月には介護報酬が改定されることから、今年も(終わる頃には)介護業界は激動の一年であったと言われるに違いない。今の時代が”VUCA”と称されて久しい。”VUCA”とは「Volatility(変動性)」、「Uncertainty(不確実性)」、「Complexity(複雑性)」、「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った造語であり、変化の激しさから先を見通すことが難しく、過去の正解が通用し難い経営環境を言い表すキーワードとして最近のビジネスシーンでは耳にすることが多い。恐らくは介護業界も多分に漏れない。限られた財源の中、介護業界はどのようにして日本の(いずれは世界の)労働市場で介護人材を確保・育成して行くべきか。また、そのような環境下、介護事業者はどのようにして経営の舵取りをして行くべきか。何かと規制が多く(行政に振り回される)、社会環境(介護サービスに対する期待値マネジメントの難しさや介護労働に対するネガティブニュースなど)からも影響を受け易い介護業界は、自らの力だけで望み通りの形を作り出すことは難しい。それに、労働集約型産業である以上、(ITやロボット化が進んで行くにしても)当面の間は、やはり事業のボトルネックは人材にあり続ける(その分、大きなブレークスルーも期待し難い)。厳しさが予測できる時点で”VUCA”ではないといった意見も聞こえて来そうだが、法改正などの外部要因によって突然視界不良に陥る(結果、売却、時に倒産してしまう)介護施設は多い。先を見通せないという意味では介護業界も同じである。

 

そもそもであるが、この”VUCA”という造語は、1990年代のアメリカで冷戦終結後の複雑化した国際情勢を意味する軍事用語として使われ始めた言葉である。2001年に始まったアルカイダとの(同時多発テロに対する)戦争においては、あまりに戦場前線での変化が激しく(=”VUCA”)、今までのヒエラルキー型、トップダウン型の組織(参謀本部が全ての情報を把握し作戦を練り、現場の戦闘部隊がそれらを忠実に実行する=意思決定から実施までに時間を要する)では全く通用しなくなってしまったと言う。そこでアメリカ軍は、ネットワーク型組織(トップの判断を待たずして、現場現場で判断し実行する=意思決定から実施までに時間を要さない)に方向転換することで、現場部隊がスピード感ある戦況に応じた戦いをすることが可能となり、結果、勝利することが出来たらしい。そんな逸話も手伝ってか(それらが今の経営環境における勝ちパターンに似ていることから)、”VUCA”という言葉が広く伝わり始めたようである。上層部の思惑(予定)通りには事が運ばない戦場を介護現場に置き換えてみても何ら違和感はない。戦争のように命が取られるようなことまではないにしても、現場(介護施設)で働く介護職は、利用者や人員体制の「Volatility(変動性)」、「Uncertainty(不確実性)」、「Complexity(複雑性)」、「Ambiguity(曖昧性)」な状況から起きる問題と常に対峙している。ここに介護保険制度の改定やご家族からの要望・クレームなどが加わって来るのだが、、、”VUCA"の由来や広まり始めた背景を知ると、これほど介護施設や介護の仕事を言い表している言葉も珍しいように思えて来る。

 

介護施設は”VUCA”な状況で介護職に仕事を与えている以上、常に過去の成功体験さえ疑ってかかる(それらを唯一の正解として扱わずに取り組んで行く)必要がある。マニュアルの整備や専門性を高める教育の重要性は言うに及ばないが、ひとつの答えだけを押し付けるようなトップダウン型のマネジメントでは介護施設で起きる問題の全てを解決することは難しい。たとえ同じ法人であったとしても、介護人材の”集まり易い地域”にある介護施設(≒競合の少ない平穏地)と”集まり難い地域”にある介護施設(≒競合の多い激戦地)とでは、たとえ起きている問題が似ていたとしても、同じ対処法で解決しようとしてもうまく行かないことが多い(複数ある施設の介護サービスの標準化が難しい理由のひとつでもある)。また、昨日の人員体制(パートナー)で出来た自分の介護が、今日の人員体制で同じように出来る(昨日の正解が今日の正解)とは限らない。それに介護業界著名人が(限られた介護施設経験の中で)発信し続ける”あるべき論”が、自分の介護施設にそのまま適用できるとも限らない。他から学ぼうとしない法人であり介護施設が最も問題であることは言うまでもないが、だからと言って、他を(あたかもそれだけが正解かのように)真似ればうまく行くと安易に考えてしまうのは組織運営上とても危険である。仕事をする環境が”VUCA”である以上、最適な答えは現場でしか見つからない。現場の介護職は易きに流れるといった批判は承知の上でにはなるが(それは介護職だからではなく人間の性である)、現場の介護職それぞれに答えを出させ続け、(たとえ期待を裏切られたとしても)それらを尊重し、改善を促し、少しずつでもその法人や介護施設の理念に近付けて行ってもらう。そのような対話を続けていくこと以外、継続的かつ実効的な組織運営は難しい。

 

「まずは目の前の利用者の介護をするのが専門職であり、社会人としても当たり前である。文句を言うのは当たり前のことが出来てからにして欲しい」。求人している介護施設関係者からよく耳にする言葉であるが、それらの発言の裏には、介護施設内の介護業務は認知症介護など難しさはあるにしても、所詮は建物の中、いつもほとんど同じ利用者を相手にする安定した仕事という経営者側であり管理者側の甘い捉え方が潜んでいるような気がしてならない。傍から見れば問題が起きて当たり前な環境下(=”VUCA”)で、自分たちにとって不都合な問題が起きれば介護職の資質に疑問を呈し、技術レベルの低さを嘆き、注意をすれば安易に退職を選ぶ介護職が悪いといった考えに縛られ続けている法人や介護施設は多い。自分たちが決めた型に押し込もうとするだけでは、介護現場で起きる問題の全てに対処して行くことは難しい。これではいくら採用(ホームページや求人広告)にお金を掛けたとしても、モチベーションの下がる介護職(退職者)が出て来ても何ら不思議はない。一見遠回りに見えるかも知れないが、”VUCA”な環境下においては、採用コストよりも、まずはそれらに対応すべく教育コスト(ネットワーク型組織に対応し得るリーダーシップやマネジメント研修、それぞれの介護職が力を発揮できるような対話型ワークショップ研修など)に重きを置くべきである。でなければ折角採用できた介護職も流出して行く一方である。厳しい経営環境にあったとしても改善の余地はまだまだたくさん残されている。”VUCA”な介護業界、”VUCA”な介護施設、”VUCA”な介護の仕事。今年一年、介護の正社員求人や派遣オーダーをいただく法人、介護施設関係者には、この言葉を積極的に口にして行こうと考えている。